支援を苦しみに変えないために

対人支援の現場で大切な「境界線」という気づき

――あなたのケアが苦しみに変わらないために

私たちが支援の仕事に携わるとき、目の前の相手の悩みに共感するのはごく自然な姿勢です。

「どうにかして力になりたい」
「この人の痛みを少しでも和らげてあげたい」
そんな思いがあって、現在の道に進んだ方も多いと思います。

でも、ふと気づくとこんな感覚に襲われたことはありませんか?

  • 相手の苦しみが、自分の心に重くのしかかってくる
  • セッション後、無性に疲れたり、理由のわからないイライラが続く
  • クライアントの問題が頭から離れず、夜も眠れない
  • 相手が変わらないことで、自分が無力に思えてしまう

その違和感や疲労感は、もしかしたら「境界線が曖昧になっている」サインかもしれません。

「その思考は、本当に事実ですか?」

まず、立ち止まって問い直してみたいのは
「私がいま考えていることは、果たして本当に事実なのか?」
ということです。

たとえば、

  • 「この人を救うのは私の役割だ」
  • 「変わらないクライアントは、私の関わり方が悪いからだ」
  • 「家族がもっと理解してくれれば、私はもっと良い支援ができるのに」

……こうした思考が、無意識のうちに頭の中を占めていないでしょうか?

私たちは日々、ニュース、SNS、職場の空気、家族の言葉、そしてクライアントの語る問題など、膨大な情報と感情にさらされています。

その中で、「こうすべき」「こうあるべきだ」という思い込みに巻き込まれてしまうのはごく自然なことです。

  • クライアントが抱える過去のトラウマ
  • 同僚の失言
  • 家族の期待
  • 将来の不安や社会情勢の不安定さ

でも、立ち止まってみてください。
それは本当に、あなた自身の問題でしょうか?

たとえ目の前の人が苦しんでいたとしても、
それを自分が引き受けなければならない理由は本当にあるのでしょうか?

バイロン・ケイティが教えてくれた「3つの領域」

支援者である私たちが、心の安定を取り戻し、クライアントに寄り添い続けるために不可欠なのが、
自他の境界線を明確にすることです。

「The Work」という自己探究のメソッドを生み出したバイロン・ケイティは、
こうした視点をとてもシンプルに、けれど深く伝えてくれています。

ケイティは「世の中の出来事には①自分・②他人・③自然(神)の3つの領域しかない」と言います。
そして「ストレスは、自分の領域を超えて他者の領域に介入した時に生じる」と説いています。

1. 自分の領域(My Business)

自分自身に関すること。
自分が唯一コントロールできる範囲です。

この領域に意識を保つことで、私たちは自分をケアしながら、相手に振り回されずに支援に関わることができます。

私たちが無力感を覚えるのは、本来コントロールできない、
介入すべきでない他者の領域に入り込んでいる時です。

それは、自分の人生の主導権を他者に明け渡してしまうことを意味します。

「自分の領域を守る」ということは、

  • 相手の人生や感情、選択の責任を背負いすぎないこと
  • 同時に、自分の感情や行動の責任を誰かのせいにしないこと

そうして自分の人生の主導権を自分の手の中に置いておくことなのです。

2. 他人の領域

他者が何を考え、どう生き、どう選ぶかという部分。
家族や恋人、クライアントであっても、ここはコントロールできません。

この領域に過度に介入し
「現状を変えてあげたい」
「なんとかしてあげなければ」
「相手はこうすべき(こうあるべき)だ」という思いが強すぎると、無力感や怒りにつながりやすくなります。

私たちはつい「良かれと思って」相手のことに入り込みますが、
それは本質的には 「相手を信頼できていない」 という態度の裏返しでもあります。

一方で、自分の領域に意識を戻せば、

  • 「私は今、どう在りたいか?」
  • 「何を選び、どこまで関わるかは自分が決める」

という主体性を取り戻すことができます。

3. 自然(神)の領域

自然現象、老い、死、社会に起きる出来事、未来についてなど、私たちにはどうすることもできない世界の流れ。

この領域に執着したり、変えようとすることで起きるのは、

  • 不安、焦り、恐れ、無力感
  • 「自分が頑張れば何とかなるはず」という過剰な責任感
  • 起きたことへの罪悪感や自己否定

私たちにできるのは、「今この瞬間、自分にできること」に意識を戻すことだけです。

この姿勢を保つことは、支援者にとっても、日常の人間関係においても、心の自由と健全な関係性の土台になります。


自分の領域から離れることによって起きるストレスの具体例>

【具体例1】クライアントの変化が見られないことにイライラする
状況:クライアントの状態が何度セッションを重ねても改善されていないように感じ、
「相手は変わろうとしていない」
「もう少し周囲の期待に応えようとしてもいいのでは?」と相手を非難してしまう。

領域の整理:「支援をどのように受け取るか、いつ、
どのような形で相手が変化するか(変化しないままか)」はクライアントの領域(他人の領域)
「自分がどのように関わるか」「どんな支援を提供するか」は自分の領域

【具体例2】職場の人間関係でモヤモヤしたとき

状況:同僚がミスをしてクライアントに迷惑をかけた場面で、
「あの人のせいでみんなの負担が増えた」と怒りを感じる。

領域の整理:「同僚がどう行動するか」は他人の領域
「同僚のミスがどのような将来につながるか」は自然(神)の領域
「自分がどう感じ、どう対応するか」は自分の領域

【具体例3】家族の意見に振り回されると感じるとき

状況:親が「その仕事は経済的に不安定だから転職しなさい」と言ってきてストレスを感じる。

領域の整理:「親がどう思うか・何を言うか」は他人の領域
「自分がどの仕事を選び、どう生きるか」は自分の領域

【具体例4】災害や社会情勢に不安を感じるとき

状況:地震やパンデミック、世界情勢の悪化などのニュースに触れ、
「こんな不安定な世の中で、安心して生きていけるのだろうか」
「将来どうなってしまうのか」と不安や恐れが強くなる。

領域の整理:「自然災害が起きるかどうか」「世界情勢がどう変化するか」は自然(神)の領域
「その情報にどう反応するか」「どんな備えをして、どう行動するか」は自分の領域

領域が守られると、関係性は健全なものになる

支援者として相手に深く共感しながらも、
自分の感情や選択の責任は自分自身に、相手の人生の責任はその人自身にあることを忘れずにいること。
それが、健全な支援関係を長く続けるためのカギです。

私たちは、相手の人生を「助けてあげる」存在ではありません。
むしろ「その人が自分の力を取り戻していく過程を信頼し、共に進む存在」です。


実践ワーク1:その出来事は、誰の領域?

以下の問いを使って、自分の中にある混乱やストレスを整理してみましょう。

  1. 最近、ストレスを感じた出来事を1つ思い出してください。
     (例:クライアントの変化が見られない/家族の言動に怒りを感じた/将来のことが不安になった等)
  2. その出来事は、どの領域に属するでしょうか?
     - 自分の領域?
     - 他人の領域?
     - 自然(神)の領域?
  3. 自分以外の領域に思いを向けると何が起きますか? どんな気持ちになりますか?
  4. 自分の領域に集中すると今、何が可能になりますか? どんな自分でいられますか?

実践ワーク2:自分の領域を守るためにできること

以下のような思考がわき起こった時、自分の領域で何ができるか、考えてみて下さい。
職場の人や親しい人と一緒に考えてみるのも面白いですね。

①「クライアントが良くならないのは、あの人がちゃんと話を聞かないせいだ」

②「クライアントが何も話してくれないから、私には何もできない」

③「組織の体制が悪いから、私が燃え尽きそうになっている」

④「上司が無能だから、私はいつもひとりで抱え込むしかない」

⑤「クライアントがリスクを抱えているのに誰も手伝ってくれないから、私の負担ばかり大きくなっている」

⑥「家族が私の仕事の大変さを理解してくれないから、ストレスが溜まる」

⑦「クライアントが感謝してくれないから、やりがいを感じられない」

最後に

支援という営みは、相手の人生に寄り添う尊い仕事です。
でもだからこそ、どこまでが自分の領域で、どこからが相手の領域なのかを明確にしておかないと
喜びと希望に満ちて始めたはずの支援が、いつしか苦しみに変わってしまいます。

領域という名の境界線を保持することは冷たさではなく、真の優しさです。
それはお互いを尊重し、互いに自由でいられるための土台であるとも言えます。

もっとも、そうは言っても、自分の領域を守ることは決して簡単なことではありません。
なぜなら私たちは、無意識のうちに「他者の期待に応えなければ」「自分が何とかしなければ」といったビリーフ(信念や思い込み)を幼少の頃から握りしめて生きてきているからです。

たとえば――

  • 幼い頃から「空気を読みなさい」「和を乱してはいけない」と教えられ、人の顔色をうかがうクセがつき、
    「自分の気持ちよりも場の調和が大事」と信じてきた結果、言いたいことがあっても我慢してしまったり、
  • 親や教師に「あなたのためを思って言ってるのよ」「親の言うことを聞いていれば間違いないんだ」と言われ続け、
    自分の感覚や気持ちよりも他人の意見を優先することが正しいと信じてしまったり、
  • 職場で「責任感があって頼りになる」「〇〇さんがいないと職場が回らない」と言われ続け、
    「自分の限界よりも周囲の期待に応えることが大事」と思い込んで無理をしてしまったり、
  • プライベートで、相手がどんどん踏み込んできても「人から嫌われてはいけない」「波風を立てるのは良くない」
    「相手の希望に合わせるのが愛情」と信じて、自分の領域(時間・感情・判断)を守れず、つい相手のペースに巻き込まれてしまったり……

このようなビリーフは、知らず知らずのうちに自分が他者の領域に踏み込んだり、逆に自分の領域を侵されることを許してしまう原因になります。

自他の境界が曖昧なままでは、心がすり減り、本来の自分から遠ざかってしまうのです。

だからこそ、自分の領域を守り、今ここの心の平安と共に在るためには、
そのようなビリーフから自分自身を少しずつ解放していく必要があります。

「ニューアルケミー」のセッションでは、まさにそのプロセスを丁寧にサポートしています。
自分と他者、そして世界を信頼して生きる感覚を取り戻し、本来のあなた自身として、健やかな支援のあり方を育む方法があります。

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